クレイジーの効用

公開されました: 3 28 , 2016
投稿者: スティーブン・ホワイト

 プーチン大統領は先週突如としてシリアから撤退すると発表した。一体全体理由はなんだろうか?政治評論家でこの発表に衝撃を受けないものは誰ひとりとして居なかった。そして、政治評論家の数だけ撤退理由が語られた。

いわく、単にはったりをかましているだけで実際に撤退はおこなわれない。いわく、経済的な理由により戦争を続けられなくなった。いわく、ロシア国内で支持を得られなかった。いわく、彼が支援してきたアサド大統領が、ロシアが味方とわかった途端に尊大な態度をとるようになり、プーチンが苛立った。いわく、差し迫ったジュネーブでの和平会議においてアサドの振る舞いを改めさせようとした。いわく、シリア国内の反政府派と西欧諸国への融和姿勢を示した。あるいはまた、プーチンはクレイジーになり、説明のつかない行動をとった。

最後の撤退理由は、一見するとあまりにもナイーブに思われるが、実のところそうでもない。アトランティック誌の最近の記事で「クレイジー理論」に言及しているものがある。ジャーナリストのジェフリー・ゴールドバーグによるオバマ大統領へのインビュー記事において、オバマ大統領は自身の外交政策が「物事の両義性をうまく利用していない、こいつはちょっとクレイジーだな、と思わせるようには反応できない」と批判されていると語った。

他方、大統領は政策顧問団から見れば、すこしばかりクレイジーだと主張している記事もある。2012年、シリアのアサド大統領が化学兵器を秘匿しているとの報告が届いた後、オバマ大統領はシリアにはっきりとした警告を発した。仮にアサド大統領が一般市民に化学兵器を使うのであれば、それは「明確な一線」を超える行動であり、その一線を超えれば米国はシリアに対して軍事行動を取る、と。そして信頼すべき情報によると、2013年8月、シリアはダマスカス郊外でサリンを使用し、数百人規模の一般市民が犠牲になった。にも関わらずオバマ大統領は制裁措置をとらず、政策助言者やメディアはこれをクレイジーだと激しく避難した。オバマ大統領は軍事行動の代わりに外交チャネルを通してシリアに圧力をかけ、シリア国内の化学兵器を破棄させることに成功した。

シリア国内の化学兵器破棄が可能となった裏にはいくつもの要因が関与しているのだろう。その数日前、英国議会はシリアに対する軍事行動を否決している。米国の世論は現在進行中のアフガニスタンとイランでの紛争に加えてシリアにまで関与することに冷淡であることを大統領は知っていた。その一方で、外交の政策助言者ははっきりとしたメッセージを送ってきた。大統領が「一線」を設定し、相手がその「一線」を超えてきたのなら、必ず制裁措置を取らなくてはならない。さもないと、大統領の権威は永遠に失われる。アトランティック誌の記事で、大統領は別の見方をしていたと明かした。筋書きの分かっているシナリオによって次のアクションが機械的に決められてしまうような時には、クレイジーに、何か全く別の行動をとったほうが、良い選択肢であることが多い、と。

「ある一線」は、あらゆる交渉にとって必要不可欠に存在する。交渉において、相手が一線を超えてきた際には、それをトリガーとして制裁措置に訴えることが必要となる。さもないと、将来いかなる制裁措置をプレイしたところで相手はそれを信じなくなり、パワーは相手の手の内に移ってゆく。ビジネスで良くある例としては、例えば支払いの遅れに対する違反金やキャンセル時のペナルティなどだ。

だが、そんな際に少しばかりクレイジーに振る舞うことは、交渉戦術になりうる。驚きの効用を利用するわけだ。相手の次の一手が予測可能であれば、交渉におけるパワーは殺がれてしまう。私は以前、カタログ通販の会社にアドバイスを与えたことがあった。この会社はサプライヤーに対して、商品をカタログに載せたら印刷代を負担させていた。印刷代は定価だったので、サプライヤーはそれを商品価格に上乗せしていた。我々は、印刷費が変更するような仕組みを提案した。売上に比例する場合もあれば、カタログ上での場所による場合もあり、また時にはフラットな料金にした。そして、課金方法は交渉が始まるまで相手に知らせないようにした。結果として、クライアントは、より低い価格で商品を調達できるようになった。

制裁を実施に移すコストは高すぎるとオバマ大統領は考えたのだろう。軍事行動によってアメリカ人に犠牲者がでること、また、国内世論が不寛容になっている点を考慮した。そしてまた、すこしばかりクレイジーに行動することによって、違う結果に至る道に踏み入ることができることを知っていた。さらには、各国の指導者たちは、オバマ大統領の次の一手を読みにくくなった。先週プーチン大統領が軍を撤退するアナウンスをおこなったのは、ちょっとばかりクレイジー、などといったものではない。

たぶん、オバマ大統領と同じ理由だろう。

原文: The Strategy of Crazy


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