嗅覚テスト
アンジェリーナ・ジョリーとブラッド・ピットの離婚が報じられた同じ日に、Channel 4のテレビドラマ「ナショナル・トレジャー」(セレブリティの性的逸脱行為がテーマ)は評論家からの絶賛を浴びた。人間の隠されたパーソナリティを見極めることは難しい、という話が、そこかしこのディナーの席での話題になったことだろう。ありとあらゆるメディアが誰かを強くバッシングすれば、社会の「中道」は場所を移してゆく。メディアも大衆も、汚職や腐敗、離婚や腐敗はおおっぴらに非難されるべき対象と考えるようになる。だが、セレブを一人ひとり見てゆけば、我々の「嗅覚」はどれくらい正しいのだろうか?有名人の行動がメディアを賑わせた時、我々の反応は「ありそうな話だ、まぁ驚かないな」か「ありえない、そんなことをするなんて、考えもしなかった」のどちらかだろう。
このところ槍玉に挙げられたセレブについて、ちょっと見てみよう。ジミー・サビル(BBCの司会者、児童への性的虐待)→「ありそう」、ロルフ・ハリス(ミュージシャン・テレビタレント、強制わいせつ罪)→「ありそう/ありえない」混合、フランソワ・オランド(フランス大統領、女優ジェリー・ガイエとの不倫)→「ありそう」、ジルマ・ルセフ(ブラジル大統領、同国最大規模の汚職スキャンダルにより失脚)→「ありそう」、ヒラリー・クリントン(米国大統領候補)→「ありそう」、セブ・ブラッター(FIFA会長、大規模な汚職に関与)→「(ものすごく)ありそう」、セバスチャン・コー(元中距離ランナー・政治家、自身が会長をつとめる国際陸上連盟会長の収賄に関与)→「ありえない」、ビル・コスビー(コメディアン、40年前のレイプ事件が発覚)→「ありそう/ありえない」混合、フィル・スペクター(音楽プロデューサー、女優ラナ・クラークソンの殺害で有罪)→「ありそう/ありえない」混合、タイガー・ウッズ(プロゴルファー、不倫スキャンダル発覚)→「ありえない」、クリフ・リチャード(ミュージシャン、未成年への性的虐待容疑)→「ありえない」
セレブたちは、自身に「嗅覚テスト」をやってみただろうか?彼らの人格と、常軌を逸した行動の関連について、考えてみたことはあるだろうか?どうやらその種の内省はあまりおこなわれていないようだ。自身に向き合うよりも、人格を演じてしまったほうがずっと簡単なのだから。さらには、セレブの中には、事実が証拠として上がっている際にも、一般大衆が嗅覚として何かを見抜いている際にも、不都合なものを否定してみせる能力を持つものも居る。単なる反抗なのか、恐怖に基づく行動か、人格障害が顔を出したせいか、映画「LIFE!」の主人公ウォルター・ミッチーばりの幻想にみちた世界に住んでいるからか。あるいは、計算づくの行動で、今自分が受けている非難から逃れる可能性を分析した上でのことなのか。明らかな有罪事件でも、しばしば有罪判決が出ないことがある。公判が始まるまでの間に証人が死んだり、陪審員が合意できなかったり病気になったり、また証拠調べのプロセスが適切に行われない、などが理由だ。カリスマ性と強いパーソナリティを兼ね備えた人物は、疑いを持つ必備とを説得してしまうことも多い。煙が満ちていたとしても、そこに火はない、というわけだ。結局のところ、一度でも罪を認めてしまえば、それでゲームはそれで終わりなのだから。拒否を続けていれば、希望ゼロの状況でさえ、希望があるということになる。
どう考えても切り抜けられない抜き差しならない状況に陥った政治家について、考えてみよう。彼らはなぜ諦めないのか?この世界に住む正気を持った人なら、ドナルド・トランプが大統領になったとして米国がよりよい社会になると考える人はいないし、ジェレミー・コービンが労働党を立て直して次の総選挙で勝てるだけのリーダーとしての資質を有していると思う人も居ない。彼らは大衆の「嗅覚テスト」には不合格だった。だが、もっと大事なのは、彼らの近くで働いている同僚たち、すなわち、それぞれの政党の中核メンバーの「嗅覚テスト」でも不合格になっている、という点だ。あらゆる点で彼らはネガティブな評価を受けているが、驚くべきことに、両者とも降りるべきとの声を無視し、今や必然と思える厄災への道を突き進んでいる。一体なぜなのだろうか?
おそらく、2つの理由が相互作用したものだろう。まず、彼らは自分自身を「嗅覚テスト」することが出来ない、という点。第二に、将来何か予想外の出来事が起こり、大衆が自分たちを支持するようになる可能性があると彼ら自身が見ている、という点。ヒラリー・クリントンは肺炎のためにつまづき、10日前にその姿が100万回もテレビで放送された。結果、世論調査ではドナルド・トランプの支持率が持ち直した。ジェレミー・コービンも、今現在は労働党がバラバラであり、また次の総選挙の時期もこの状況は変わらないにせよ、保守党がEUや他国との交渉を進めるに連れて、保守党もまたバラバラになってゆくだろう、と考えているのかもしれない。もしそうなら、ジェレミー・コービンは、希望の星として再選される、というわけだ。
あなたが交渉者としてこのようなロジックを取り入れるなら、どんなに希望が無いように見えても、絶対に降伏してはならない、ということになる。交渉相手の「嗅覚テスト」は間違っているかもしれない。何が予想外の事態が起こり、不可能が可能になるかもしれないのだ。
原文: The Sniff Test
筆者について:
スティーブン・ホワイト
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