データの誤謬

公開されました: 12 05 , 2016
投稿者: スティーブン・ホワイト

 我々はハイパー不確実性の時代に生きている。予想もしなかった結末に驚きと動揺の連続であるこの世界において、データは我々を導く味方のように思える。出来る限りのデータを集めて過去を徹底的に分析すれば、未来は確実にわかるようになる。データは不確実性を低減できる。

これは真実ではない。

データの誤謬とでも呼ぶべき現象がここかしこで起きており、不確実性の低減どころか、データ分析こそがハイパー不確実性の原因になっている。例えば世論調査は、注意深く選択された母集団からの膨大なデータに基づいており、勘や当て推量よりもずっと正確性が高いと考えられている。ところが、世論調査は近年何度も間違っており、世論調査の間違いこそがハイパー不確実性とそれに続く諸問題の原因となっている。2015年の英国総選挙、2016年10月のコロンビア政府とFRACの和平協定に関する国民投票、 2016年の英国におけるEU脱退を問う国民投票、この週末投票となる、イタリアの改憲国民投票も世論調査が間違っていたもう一つの例になるかもしれない。

もちろん、「ゴミを入力すれば、ゴミの結果」は古くから知られている真実であり、そこに新味は何もない。もし集めたデータが不適切なものなら、あるいはデータの分析が間違っていたら、導かれる結果は無意味だ。世論調査はデータの収集や分析に精通した専門家が実施している。だとしたら、こんなに何度も間違いを繰り返す理由は何なのだろうか?ハイパー不確実性を引き起こしているのは、まさに、このようなデータとその解釈の不全だ。我々が日々の意思決定の際に頼りにしているデータが信頼できない、ということであれば、この世界はどれほど恐ろしいものになるだろう?

昨日、英国政府は、役員報酬に関する推奨事項を公表した。内容の骨子は次のようなものだ。会社は、CEOの役員報酬と平均的な従業員の給与のギャップを公表しなくてはならない。こうすれば、株主も従業員も、複数の会社で役員報酬と従業員給与のギャップを比較できるようになり、よって自社のCEOに高すぎる報酬を支払う事態を避けられるはずだ。言葉を換えれば、理屈の上では、データを収集して解釈すれば、庶民と特権階級の関係を、より倫理的で公平なものに改善できるはずだ。

だがハイパー不確実性の時代には、これは当たらないだろう。データを信じるわけにはゆかない。たとえば役員報酬の定義はなんだろう。ストックオプション、福利厚生パッケージ、賞与は含まれているのだろうか?平均的な労働者の平均所得とは、アウトソースされている仕事の給与やパートタイム、完全出来高制の人の給与は含まれているだろうか?さらには、企業はこの情報を公表する定めとなっているが、この決まりを捻じ曲げて、透明性に雲をかける道を見つけ出すかもしれない。

実際のところ、この種のデータの蓄積は、雇用者と被雇用者、また被雇用者の代表である労働組合との信頼関係にはざまざまな誤謬をもたらすだろう。データが当てにならないとなれば、感情的な反応がよりパワーを持つようになる。サザン・レールとASLEFイギリス鉄道運転士労働組合は、運転士一人での列車の運行についての争議を続けているが、これはその一例だ。労働組合は運転士一人での列車運行には安全上の問題があると主張しているが、過去20年以上に渡って英国では運転士一人体制での列車の運行を行っており、データによると、安全性に別段問題はないことがわかってる。もちろん、この労働争議には当事者間(と会社の糸を後ろから引いている政府)のパワープレイという面もある。しかし、この話の核心は、労働組合側は、運転士一人での運行は、データがどうであろうと、実のところ安全面で劣っていると、旅客に知らしめることができるかもしれない、という点にある。専門家がデータに基づいて断言してきたことが、これまで何度も間違っていた以上、もはや人々はデータを信じなくなっている。

交渉の実務レベルにおいては、交渉者は常に相手が示すデータに問いを発し、問題点や間違いを見つけ出してきた。だが今となっては、あらゆるデータの示すところは疑わしいという前提をもって、データの価値を否定するだけで十分なのかもしれない。この戦術は、ある種の人々にとっては痛快だろうが、数多の人々にとってはイライラさせられるものだろう。

 

原文:  The Fallacy of Data


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