核抑止力と交渉

公開されました: 8 08 , 2016
投稿者: ロビン・コープランド

英国の保有する核抑止力が世代交代の時期に差し掛かり、英国全土(特にスコットランド)で論争が沸き起こっている。まずは全体像から説明しよう。

英国が潜水艦に搭載している核弾頭は第二世代のものであり、ライフサイクルの半ばに差し掛かっている。4隻の潜水艦からなるトライデント・ミサイル艦隊を更新すべきかどうか、今決めなくてはならない。更新するのであれば、4隻の潜水艦をすべて新造する必要がある(もちろん3年から4年の期間をかけるが)。米国のような段階的な世代交代は選択肢ではない。ご想像の通り、この論争は20年から25年ごとに定期的にやってくる。「賛成」「反対」それぞれの立場から、本質的には白か黒かいずれか一方のみを選ぶ意思決定に向けて、熱を帯びた論議が繰り広げられる。折衷案は存在しない。

核抑止力の議論はスコットランドでは更に熱を帯びる。2年前には独立についての国民投票で脛に傷を負ったばかりだし、つい先般のEU離脱についての国民投票も、他の地域と同じく記憶に新しい。現在の与党はスコットランド国民党SNPであり、彼らは「原子力」と名のつくものは、兵器だろうと発電だろうと反対の立場を堅持する。これはちょっとした問題だ。というのも、現在のトライデント・ミサイル艦隊の基地はクライド湾ファスレーンに置かれており、つまり基地はスコットランドあるのだから!

英国の小選挙区制度では、選挙区で単純に最多票を得たものが当選する。この選挙方式は時として気まぐれのような結果をもたらし、現在スコットランド国民党は59議席のうちの54議席を占めている(以前は56議席だったが総選挙以後に2議席を失った)。スコットランドの有権者の多数派(45%から55%)は独立に反対したにもかかわらず、昨今の総選挙では独立主義者が多数派を占めている。スコットランド国民党は民意を代表していると主張しているが、最近の世論調査によると、42%がトライデント・ミサイル艦隊の更新に反対、43%は賛成、15%が態度を決めかねているという。

背景はこれくらいにしておこう。この話のどこが交渉と関係があるかって?全て関係がある。私は、この世界に住んでいる大多数の正気の人々と同じく、大量破壊兵器など存在しない世界に住みたいと思っている。だが同時に、世界貿易センターに旅客機で突入したり、身体に巻きつけた爆弾をロンドンの地下鉄で爆発させれば、57人の処女が仕えてくれる楽園に行けるなどと考える人間の居ない世界に住みたいとも思っている。信仰や特定の教義を持った人たちが、自分たちの考えを他者に無理強いするような試みからは一線を引いた世界に住んでいたい。つまり私は、頭のイカれた人間の居ない、合理的で幸せな世界に住みたいと思っている。

だが、この望みには難しい面もある。世界には、下劣で不愉快なビジョンを持った人間が居る。時たま、そんな連中が力を得ることがある。時として我々は自身の文明を落ち目に向けてしまうような過ちをおかす。その過ちにつけこむように、この手の連中が有権者の支持をとりつけることがある。ヒトラーは1933年に選挙で選ばれた。理由は?馬鹿げたヴェルサイユ条約のためだ。イラク、シリア、アフガニスタンでは、無辜の人々が爆撃され、傷ついたり生命を落としてきた。そんな愚行をさんざん行った後で、自分たちが作り出した権力の真空が、頭が空っぽの連中で埋められてしまうのかは何故かと首をかしげることになる。

というわけで、核抑止力だ。もらっている給与分の仕事をしている交渉者なら、みんなこう言うだろう。どのような対立不一致の状況においても、一方的に何かを手放すべきではない、絶対に、だ、もしそんなことをすれば、相手はさらに次を求めてくる、と。仮に英国や西側諸国が核抑止力を放棄してしまえば、これはすなわち、地域紛争や大小様々な侵略を招き寄せているに等しい。悲しいけれど、これが真実だ。

中国とロシアが核への投資を続けている事実を鑑みるに、気が進まないが、英国も核抑止力を持ち続けるべきだ。我々が核抑止力を維持すれば、その事実によって、相手側が核のカードを切るのを躊躇うようになるだろう。核抑止力の唯一の良い点とは、先の大戦以来、相互抑止が機能した結果として、一度も実際に使われなかった、という点だ。第二次世界大戦の最後に日本に使用された2発の原子爆弾を除いては。

 

原文: Nuclear Deterrent. Is It an Option?


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