穏やかな内面
妻はとても穏やかな人間だ。彼女は常に私にはそう言い続けている。
冗談はさておき、彼女は本当に穏やかな人間だ。30年以上に渡る結婚生活の間、妻は自分のような夫と上手くやってくれているのだから。もちろん、妻は私に対してのみ穏やかなわけではない。我が家の子供たちは、気持ちをわかって欲しい時には、必ず母親のもとに行く(何か欲しいものがあるときは父親だ)。妻がその穏やかさを崩した姿を、私は思い出すことが出来ない。小学校の教師であり、元気盛りの7歳児18人のクラス担任をつとめている。内面が真の意味で穏やかでなくては務まらない仕事だ。
しかしながら、何か一線を超えるようようなことが起これば、妻は絶対に戻ってこない。これについては、試したりしないほうが良い。一度ルビコン河を渡れば、渡ってきた橋はすべて、脆く崩れやすい灰に姿を変える。
こんな話をしてきた理由は、以下の教訓をお伝えしたいからだ。
昨日妻は、学校で誰かと口論をした、と言った。口論の相手は、妻に、来週のある日に会いたいと言った。この日は学校は休みの日だ。休みの日の時間の使い方に干渉されて、妻は頑なになった。
「でも、君はその日はどのみち学校に行くと言っていたじゃないか?」と私は尋ねた。
「それが何だっていうのよ」と妻は言った。「もし彼女がその日に学校にいて欲しいと言うなら、私は学校に行きません」
これは心理学者が「非互換バイアス」と呼ぶものであり、一方の側にとっての利益が他方と絶対に相容れないという考え方だ。交渉ではしょっちゅう発生する。
非互換バイアスは、マックス・ベイズマンとマーガレット・A・ニールの著書「Nigotiating Rationally」に素晴らしい説明がある。
この本は、アメリカで実施されたとある研究を紹介している。実験の参加者は、合衆国にとって兵器削減政策がどれくらい好ましいのかを記録するよう求められた。
兵器削減政策の中身は全ての参加者に同じものが伝えられたが、参加者の半分には、この政策はアメリカの大統領が提言したものと説明され、残り半分の参加者には、ソビエトの指導者が提言したと伝えられた。
驚くべきことに、全く同じ政策が、誰が提言したかによって、全く異なる見方になった。この実験は、我々の思考力には欠陥が潜んでいる可能性を示唆している。
相手にとって良いことならば、自分たちにとっては悪いことに違いない。
あなたは交渉に望むにあたり、先入観や好き嫌いを、どれくらい持ち込んでいるだろうか?それらの先入観や好き嫌いは、あなたの交渉能力に、どのような影響をおよぼしているだろうか?
真の意味での穏やかな内面に向き合ってみると良い。多くの学びがあるだろう。
原文: Incompatible
筆者について:
アラン・スミス
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