ドナルド・トランプ氏の交渉行動特性と国際関係への影響

公開されました: 10 10 , 2016
投稿者: ヤニス・ディマルキス

11月9日には次の合衆国大統領が決定する。世論調査の結果はまだはっきりとしないが、ドナルド・トランプ氏が次期米国大統領に選出される可能性は統計的には現実のものだ。現職の米国大統領が交渉に関してどのような行動特性を有しているのかは「地上で最も影響力のある国」が直面する様々な課題(地球温暖化から、シリアや北朝鮮の脅威に至るまで)に対する同国の行動を左右する。

一国の元首の交渉行動は元首の世界観のあらわれであり、その国の動きに多大な影響を及ぼす。そのような観点から見た時、トランプ氏の交渉スタルはオバマ氏のスタイルとは全く異なっている。もし彼が大統領の座を手に入れた場合、アメリカ合衆国は過去に一度も体験したことのない行動をとるようになるだろう。よって、国家元首の交渉行動特性の詳細な考察は意義があるだろう。以下に説明するように、トランプ氏の交渉行動は、世界、特にヨーロッパに、はっきりとした、劇的な変化を引き起こすことだろう。

個人にせよ組織にせよ、交渉行動は大きく分けて2つのタイプが有る。「協調的」と「競合的」の2つだ。どちらか一方100%ということは、まずない。通常はこの2つのうちのどちらか一方の傾向が強い、という現れ方をする。

ドナルド・トランプ氏は競合型の極端な例だ。この結論は、交渉に関連したこれまでの彼の言動から導くことができる。80年代のトランプ氏の著書「ディールのアート」において、彼が交渉をどのように捉えているのかについての記述がある。人は常に、自分のポジションパワーを利用して交渉すべきだ、という彼の言葉には驚かざるを得ない。もしそうだとするならば、トランプ氏はシリア危機にどう対処するのだろうか。トランプ氏の交渉行動を30年前の著書のみで決めつけているわけではない。今日の地域紛争に対する氏の反応から、交渉における行動特性を伺うことが出来る。イランと米国の関係が典型的な例だ。トランプ氏の交渉戦略は次のようになるだろう。米国側の条件をイランに伝え、イランがそれを受け入れるまで1週間待つ。もし1週間で受け入れなければ、毎週イランに対する制裁措置を倍に引き上げてゆき、降伏するまでこれを続ける。

メキシコからの移民については、国境に壁を建設すれば問題解決だ、と何度も主張している。さらには、壁の建設費用はメキシコに支払わせる、とも。メキシコ大統領がそのような費用は絶対に負担しないと言った時、トランプ氏は「それなら壁が10フィート高くなる」と応じた。彼の問題認識の(非)効率性はともかくとして、イランとメキシコ国境の壁という2つの例をみるに、トランプ氏は外交の基本原則を無視している。最終的な結果がどうであれ、交渉では、すべての関与者が面目を保たなくてはならない。負けた側も、残念な結果を、後ろに控えている人々に売り込まなくてはならないのだから。

トランプ氏は、あらゆる国際問題に、ほぼ同一のスタンスで臨んでいる。この新しいプレイヤーは、世界にどんな影響をもたらすだろうか。まず、米国は、ロシアと中国からの反発に向き合い乗り切らなくてはならない。どちらの国もトランプ氏率いる米国の行動を支持しないだろうし、降伏することもないだろう。非友好国で居続けるのなら、自分たちのコントロールが及ばない核保有国、もしくは核保有国になりつつある国からの極端な反応を御することもできない。北朝鮮やイランはそのようになるだろう。

自分のやりかたを事実上あらゆることに押し付けようとするトランプ氏の性格を考えると、同盟国との協調も簡単ではないだろう。あらゆる局面で必要とされる複雑な外交手続きは、これまで以上に困難になるだろう。外交的なデッドロックが頻発し、世界の様々な場所で傷がゆっくりと広がってゆく。それに代わって武力衝突が増えるだろう。武力紛争に関与する戦闘員や一般人の生命が脅かされるのに加えて、紛争地域からの難民が増えてゆくことは明らかだ。難民は、ヨーロッパ、北米、オーストラリアなど、魅力的な地に向かうことだろう。

同盟国がすべてトランプ氏の選択と行動を同じくするという保証はない。結果として、ロシアや中国などの大国が世界のあらゆる地域で自国の影響力を増やす機会を狙うようになるかもしれない。トランプ氏の選挙キャンペーンにおけるモットーは「アメリカに再び栄光を」だが、トランプ氏が選出されれば、結果は真逆となる可能性がある。世界各国における米国の影響力低下だ。

仮にトランプ氏が選出されたとして、上に述べるような状況を避ける唯一の希望は米国の政治制度(特に、議会)と外交コミュニティだ。どちらもトランプ氏の競合的なスタイルをやわらげ、場合によっては否定して、数十年間に渡る膨大な外交努力が積み重ねてきた国と国の結びつきを守ろうとするだろう。また、米国の長期国家戦略と一致した行動を守ろうとするだろう。だが、新たに選出された米国大統領の勢いを決して甘く見るべきではない。議会や外交コミュニティが、大統領と立法府の中で対立する状況を目にすることになるかもしれない。

トランプ氏の交渉行動特性は、米国の他国との関係性にある種の必然的な結末をもたらことになる。我々にとって、ポジティブなこと、喜べることではないだろう。近い将来、本稿の分析が正しかったと証明されることが無いことを祈ろう。

 

原文:  Donald Trump's Negotiating Profile and Its Consequences for US International Relations


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