拙い外交

公開されました: 7 16 , 2015
投稿者: スティーブン・ホワイト

歴史に残る外交上の合意が2つまとまった。ギリシャとEU /ユーロ圏についての合意と、イランとP5+1の合意だ。どちらも外交努力の勝利として讃えられている。どちらも酷いものだ。いずれの合意も全方面から軽んじられ、誰も自分のこととして受け止めていない。インクが乾くにつれてバラバラになってゆくだろう。教訓はなんだろうか?

1.相互信頼がカギとなる要素。どちらの交渉でも双方に相互信頼は無かった。不信感が消え難く存在し続け、取るべき行動が本当に実施に移されるのか、合意が実施される備えは本当にできているのか、強い不信感が漂っていた。ギリシャでは人口の半分が税金を支払っていない。今後彼らが税金を支払うようになると信じたギリシャ人は誰も居ない。ユーロ圏では5年間で3度目となる経済危機がこれで最後とは、誰も考えていない。イランでは、悪魔(米国)が信頼のおける味方になると考えている人は居ない。P5+1は、イランの秘密主義や物事をあえて不明瞭にする行動が止まるとは、誰も信じていない。つまり、当事者全員が、今回の合意の前提となる諸条件が続いてゆくとは考えていない。そして、これらの諸条件こそが、今回の合意が続いてゆくための前提なのだ。

2.時間がカギとなる要素。いずれの合意も、主要課題についてはかなり長い期間にわたって取り決めることになている。ギリシャの合意では次の5年間、イランの合意は10年から15年だ。このような時間設定は馬鹿げている。ギリシャに課せられた緊縮財政の結果として経済が発展し債務減免(ドイツや他の国は反対している)無しでも借入金の返済が可能になるというが神話あった。今やこの神話はIMF自ら先頭に立ってぶち壊している。西欧社会では10年から15年は長い年月だが、イランの宗教指導者にとっての長期目標は勝利を収めること、スンニ派に対してシーア派が勝利することであり、更には他の宗教に対するイスラムの優越性を獲得することだ。15年など一瞬の瞬きの時間だろう。彼らの時間感覚は世代や世紀に及んでいる。交渉の当事者が異なる時間軸を見てるのなら、合意は必然的に欠陥のあるものとなる。

3.エゴがカギとなる要素。いずれの交渉でも、交渉に臨んだトップや交渉アドバイザーは賢く知的能力が高いことは疑問の余地がない。しかしながら、彼らは、結果を出すという必要性に強く縛られてエゴイスティックな行動を続けており、何が本当の結果なのか分からなくなってしまった。背後には世論のウケという非常に大きな存在が有り、常識は消えてしまったかのようだ。アレクシス・ティプラスは、アレクサンダー大王の再来 ― 戦闘では無敗 ― と自らを見做しているのかもしれない。ジョン・ケリーは自身を21世紀のヘンリー・キッシンジャーと重ねあわせているかもしれない。もっとも、歴史は彼らにそれほどは好意的ではないかもしれないが。合意のいちばんの成果がプレスリリースということであれば、そもそも合意などしないほうが良い。

4.何かを生み出してゆくことが重要。どちらの交渉も既に長く続いてきた。ギリシャの交渉は2009年から2010年にかけてユーロ圏の経済小国が困難にぶち当たった時からだ。イランとの交渉は2003年に同国への経済制裁が俎上に載せられ、西側諸国が実際に制裁に踏み切って以来だ。これらの進展をフォローしている人の眼には、協調的な内容の合意を迅速に結ぶよりも、敵対的な内容のほうが好ましく映るようだ。立ちはだかる障害を取り除き意義のある合意に至るために、交渉者にはどれほどのスキルが必要になるか、想像できるだろうか? とうの昔にタオルを投げたりせずに、踏みとどまって意義のある同意に至るために、交渉者はどれほど我慢強く強い決意を持ち続けなくてはならないだろうか?歴史から学ぶべきだ ー 戦いが長引くほど、戦いの後にやってくる和平は疲弊にまみれる。

5.外交がカギとなる重要性を持つ。ウィンストン・チャーチルが1945年に口にした有名な格言「戦争するよりは論議するほうがまし」を引用しよう。個人的にはチャーチルがこの言葉を口にした時本心からそう思っていたとは考えないが(彼の生涯の行動はこの言葉を裏付けなかった)、この考え方は西側自由社会の中心教義の一つだ。外交は戦争よりもマシであり、イランと交渉し合意するほうが、その代替手段よりはずっと良い。代替手段の方向に事態が進めば少数のテロ支援国家が引き続き存在し続けることになるだろう。ユーロか揺るぎない基軸通貨であり続けるために、交渉が決裂するよりもユーロ圏に留まるほうが良い。どちらの交渉でも、下手な外交の成果は避けられない惨事を遅らせるるだけ、という考え方が見られるが、それは貧弱な認識というものだ。いずれの交渉でも、既にまとまった合意に変わりうるのは’合意なし'ではなく、より良い合意だ。私の意見では、いずれの合意もおそらく崩壊し、より長期にわたる影響をもち、世界にとってより良い意味を持つ合意がやってくるだろう。

 

カギとなる要素が多すぎる?とんでもない、外交のサークルにおいては、課題が多すぎるなどということは絶対にない。

 

原文: Rubbish Diplomacy

 

 


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