4歳児に学ぶ
最近放映されたドキュメンタリー「4歳児の秘密の生活は」は、大人の仕事の進め方について興味深い示唆を与えてくれた。カメラがセットされた幼稚園の教室で4歳児を自由に遊ばせる。二人のベテラン幼稚園教諭が付き添い、児童心理学者のチームは外部から子供たちを観察している。
一人ひとりの性格特性が判明した後、子供たちは2つのグループに分けられ、段ボール箱で建物を作り飾り付けるという課題を与えられた。グループ分けには基準あり、1つのグループには支配的な性格の子供が、もう1つのグループには支配的ではない子供たちが配置された。素晴らしい建物を作ったほうが勝ちと伝えられる。はじめのうちは両グループとも熱心に課題に取り組んでいた。ところが支配的な性格のグループでは、熱意はすぐに醒め、口喧嘩が始まり、課題への興味もなくしてしまった。子供たちが主導権争いを始めたからだ。チームは機能しなくなり、結局建物は出来上がらなかった。一方支配的ではない子供たちのグループは静かに課題を進め、よく協調し、がんばって勝ちをおさめた。
交渉者は「最も優位なオスの個体」(もしくはメスの個体)になろうとすることが多い。優位な個体であれば主導権を握れるし、劣位の個体を屈服させることが出来る。それは正しいのかもしれない。だが、多くの交渉では、交渉者は個体としてではなく交渉チームの一員として振る舞わなくてはならない。交渉チームに支配的な性格の交渉者が多ければ、それは失敗のレシピと呼んでも良い状況だ。
目前に迫っているギリシャ政府と欧州首脳の交渉でも、まさにこの状況が整いつつある。両チームとも強烈なエゴに満ち満ちている。ギリシャ側ではチプラス首相とバルファキス財務相は、二人とも反緊縮財政に向けての交渉戦術を完璧に足並みを揃えて理解したと考えている。ところがこの二人の間でも交渉戦術の解釈は異なっているようだし、戦術変更もあるようだ(そもそも交渉をするのか?しないのか?)。一方の欧州首脳陣はといえば、ユンケル欧州委員会委員長、ラガルドIMF専務理事、マリオ・ドラギ欧州中央銀行総裁がお互いの人格をいったん脇においてチームとして交渉する、という考え方はあまりに無邪気と思えるしメルケル首相や他国のリーダーからの影響は言うに及ばずだ。
おそらくこの交渉に関わる全員が、4歳児に戻ってやり直してみるのも良いかもしれない。
筆者について:
スティーブン・ホワイト
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