シグナル?

公開されました: 11 12 , 2015
投稿者: デビット・バニスター

3週間前、私は本ブログで英国のデビット・キャメロン首相からEUのドナルド・トゥスク議長に宛てる形でのコミットメントについての記事を書いた。英国がEU加盟国であり続けるかどうかの可否を問う国民投票は2017年までにおこなわれる。それに先立ち、EUとの交渉で英国が主張と思われる論点について述べた。EU議会の英国代表であるダニエル・ハナンはEU離脱派だが、ハナンが英国の高級紙であるデイリー・テレグラフに発表した論文には懸念を覚えた。ハナンの予期した通り、11月10日、キャメロン首相はドナルド・トゥスク氏に書簡を送った。書簡の内容は公表された。要約すると以下の様な内容だ。

  • 英国が経済政策に関する自立性を維持すること、また、他のEU諸国の多数決によって自国通貨の継続使用を否決しないことを保証すべきである。
  • 競争力の維持:グローバル化が進む経済において、EUは地域全体の競争力を保つために無用に制約の多いルールの下で一つの地域と見做されるようになっている。このような規制は緩和されるべきだ。
  • 主権:EU憲章は「 (構成国の国民の)史上例を見ない連携」を謳っている。英国民にとっては中央集権的な連邦を目指すものと受け止められている。英国はこのような考え方からは距離を置く。
  • 移民:英国はEU域内からの移民に制限を設けたい。移民が少なくとも4年間国内に住居し、納税と国民家健康保険制度を通して国庫に貢献した後に、職や子供に社会保障を与えるようにしたい。

交渉者として、この4点についていろいろと想うことろがある。本当にこれで全部だろうか?首相は交渉を優位に進めるために十分な数の変数を持っているだろうか?これらは「必達・必避アイテム」なのか「交渉課題」なのか?ウィッシュリストはあるのか?個人的にはたった4つの項目をテーブルに載せ、英国民やヨーロッパの人々が気にかけているその他多数の項目について何も言わないのは不味い戦術と考える。実際、EU離脱派のとある閣僚 (たくさん居る!)は、昨日、この書簡を「弱い糊」と表現した。もちろん、4項目ではなく40項目を勝ち取ったとしても英国の「EU恐怖」を克服できるかといえば、怪しいものだが。

しかしながら、私が興味を感じるのは、この4つのみを俎上に載せるという戦術面よりも、この提案に関する周囲の反応だ。いくつかを見てみよう。

まず第一に、欧州委員会のスポークスマンのコメントを見てみよう。全体のトーンを代表している。

「この書簡の提案には、例えば加盟国の国会の役割を増やすなど実現可能と思われるものもいくつもあるし、加盟国間の移民など難しい課題も含んでいる。更には、ユーロ圏の市場アクセスの自由など、根源的であり非常に大きな問題となるものも含まれている。EU域内の住民を差別して扱うことも、非常に大きな問題だろう。欧州委員会は、この書簡は交渉の終着点ではなく始まりにすぎないと考える。我々は英国と公正な話し合いに向き合うことになるし、また、英国も同じようにEU加盟国と公正に話し合うべきだ」

交渉者なら、この声明は交渉に応じる姿勢を示すものと受け取るだろう。私はそのように受け取った。さらには、いかなる課題も「交渉不能」とはしていないものの、これは優先順位――ある課題は他の課題よりもずっと困難だ――を確立しようとしているように見える。「こちらには、そちらが言っている以上に、色々な課題がある」というヒントを送っているようだ。パワープレイの最初のシグナルだろうか?

相手側の重要ポジションにいる人達の言葉に耳を傾けることは大切だ。欧州議会の長であるマルティン・シュルツは(そう、EUには代表が二人いるのだ!)移民に関する要求の適法性について「強い疑念」を表明している。提案の中で「非常に大きな問題」について交渉の俎上に上げる気はないというはっきりとした意思表示だろう。では「非常に大きな問題」が、完全な無理筋になるのはどういう状況下でだろうか?はっきりと違法になったとき?

ドイツの財務大臣ヴォルフガング・ショイブレはEUに大きな影響力を有している。キャメロン首相の書簡が公開される前に、彼は「話し合いの余地はかなり大きい」と述べた。EUには柔軟性がある、というわけだ。ドイツの首相メルケル氏は昨日「難しい問題と、それほど難しくない問題がある」と述べた。お気づきのように、メルケル首相は、何一つ話し合えるものはない、と即座に否定したわけではない。そして最後に、デビッド・キャメロン自身が「非常に大きな問題」である移民について、「他の方法を模索することもやぶさかではない」と述べている。

交渉者として、これら一連の流れから何を読み取るだろうか?初期的な仮説が作れるだろうし、それに基づいた予測も出来るように思う。一連の交渉が行われ、最初の段階ではEU加盟国が自ら国益(多岐に及んでおり、お互いに相容れないものかもしれない)を明らかにする。今現在、まだそれらは明らかになっていない。書簡で提言された4つの課題について動きがあるだろう。これらを交渉対象として取り上げないというシグナルは、現在のところ何もないのだから。その4つ以外の課題でも動きが出てくるだろう。EU加盟国の中で、自国とEU全体のあり方について、多くの論議が沸き起こるだろう。これらの論議の中で、ヨーロッパの調和という合言葉を英国政府が再定義したいと望んでいることも明らかになるだろう。おそらくは、他の加盟国にとって容認出来ないような形で。さらには、パワープレイがおこなわれるだろう。EUは加盟国が離れることを望んでいない。だとしたら最終的にはどのような形で決着するのか?キャメロン首相は柔軟性を取り戻すかもしれない。既にその一歩は始まっている。

賢者は何かが起こる何ヶ月も前からその兆しに最大限の注意を払う。耳を澄ませてシグナルを聴き取り、眼を見開いて曲がりくねった戦術を追いかけよう。先に続く道は長い。

原文: A Signal Day for Europe?


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