私はつい先日休暇から戻ったばかりだ。休暇での大きな楽しみの一つは本をたくさん読むこと、今回の休暇でも何冊かの本を読んだが、そのうちの一冊が「ボブという名のストリート・キャット」だった。前向きにな気持ちにさせられる本だし、時に訴えかけてくる本でもある。この本は麻薬中毒者ジェームス・ボーウェンと、彼の飼猫ボブの物語である。ボブはジェームスが住んでいた建物のロビーで拾われ、捨て猫から最良の友達となった。ボブのためにジェームスはヘロイン中毒を克服しようと決意し、ロンドンで「ビックイシュー」誌を売る仕事にありつく。ジェームスは以前は大道芸人だった。ボブはバスに乗りジェームスとともに売場についてゆき、いかにして猫が行き交う人々の関心を集め、財布の紐を緩める助けになったかについて語っている。彼が有名になるにつれて(彼は有名人だ、Facebookには10万人のフォロワーが居る!)ボブは多くのファンを得た。何人かの客はボブに家を提供すると言ったが、ジェームスにとってボブは家族同然なので、この申し出を断った。ビックイシューをいつも買ってくれるとある女性が、ボブを買いたいと申し出た。ジェームスは何度もこの申し出を断り続け、その度に金額も上がっていった。ついには1000ポンドでボブを買いたいと言ってきた。ジェームスは女性にこう尋ねた。「お子さんは居ますか?」「ええ」と答えた。「二人居ます」「では、下のお子さんを私にいくらで売ってくれますか?」とジェームスは言った。女性は震え上がり、あっという間に目の前から消えた。
さて、ジェームス・ボーウェンは、猫を売ろうとして買い手と交渉することを考えたことは一度も無かったろうか。まぁそれは間違いないと考えて良いだろう。しかしながら、彼がこの女性に対処した方法は、全ての交渉者が手本とすべきものだ。単に”No”ということが不十分だったので、ジェームスは効果が立証されている交渉テクニックを使った。要求に値をつける、という方法だ。ボブは自分の子どもと同じく大切な存在なので、もしあなたがボブを売れというのなら、あなたは私に自分の子供を売るべきだ。もちろん、この要求は激しい反感を買う。なんという酷いことを!だが、ジェームスにしてみれば、その女性が自分に対してしているのと同じだけ酷いことを要求しているに過ぎない。ジェームスとボブは、それ以来一度もその女性に会わなかった。ジェームスとボブにとって、理にかなわない要求に相応の値をつけることは、単に”No”と言い続けるよりは良い成果となったようだ。。この本の中で交渉について何か学べる点はこれだけだが、この本は、人の情や諦めないこと、愛情について、多くのことを含んでいる。だから、ともかく読んでみることをお勧めする。
筆者について:
デビット・バニスター
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