昼休みにて
経理の二人の事務員と上司が、昼休みにオフィスを出た。道を歩いていると、古めかしいランプを見つけた。ランプをこすると魔神が現れて、各々一つだけ望みを叶えて差し上げよう、と言った。
「じゃまずは自分が!」と一人の事務員が叫ぶ。「バハマに住ませてくれ、毎日スピードボートを乗り回して、その他の世界のことなんか忘れてしまうのさ」ポン!彼は消えた
「次は私だ!」と残された事務員が叫ぶ。「ハワイに行きたい。ビーチで専属のマッサージを受けながら、ピニャ・コラーダをすすってのんびり過ごすんだ」ポン!彼は消えた。
「よろしい、次は汝だ」魔神は上司に尋ねた。
上司はこういった。「昼休みが終わったら、あの二人をオフィスに戻していただきたい」
この話の教訓は次のようなものだ。先んじることは、時として誤った戦術となる。交渉の学術的な研究によると、相手に先に提案させるのが良い戦術なのだそうだ。理由は、相手からの提案はこちらが考えていたよりずっとこちらに有利なものかもしれないし、もしそうなら合意の方向性をあなたが望む方向に持って行ける可能性があるから、という。
しかしながら、スコットワークは「先に提案することこそが、交渉における良い行動である」と長く主張している。提案は交渉の内容を決定づける。提案に続く会話のおおまかな「地形」を形づくる。交渉の中に組み込みたいと望んでいる変数を持ち込むことが出来る。さらに、最も大切なのは、自分の側の交渉可能範囲がどれくらいあるのか、形を与える。こちらから提案すれば、相手の仕事は、あなたが理想と考えるポジションから、少しでも対手の望む場所に近づくよう、自分の提案の一部の変数を上げたり下げたりすること、ということになる。
では、先に提案するのが戦略としてマズいのは、どのような状況だろうか?2つの側面から考えよう。まずは可能性の側面から。相手のそれまでの言動から、市場、競合、価格などの「事実」について、相手が無知であることが分かったとしよう。その場合、相手は、あなたに有利な、寛大な提案をしてくる場合が多々ある。もしそうなら、相手に提案させよう。第二に、交渉を進めるために相手のニーズを知るという側面から。提案がテーブルに置かれれば、それで交渉は進む。交渉における探索的なフェーズ(「論議する」のステップ)において、相手のニーズや重視している事柄が分からなくてこちらから適切な提案が出せない場合、相手から先に提案させると、そこから情報が得られるかもしれない。相手の提案はこちらの口には合わないかもしれないが、何が課題になっているのかを知ることが出来るだろう。
相手に先に提案させるのは、ほとんどの場合、下手な戦術であることを忘れてはならない。相手に先に提案させたら目を剥くような素晴らしい成果が手に入った、という話を聞くことがあるだろう。この手の話が喧伝されるのは、そもそも、そういう話はめったに無いからである。相手から提案させた場合、こちらに良い話など出てこないことが殆どである。
原典: Out to lunch
筆者について:
スティーブン・ホワイト
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